「雀の卵」−永井龍男−

年末の古本市で見つけた短編集。全部ではないのだけれど鎌倉で暮らすお年寄りの穏やかな日々が綴られていて、どこまで本当にあったことでどこまでフィクションなのかよく分かりません。
庭に咲いた花や実、そして近くの山から飛んでくる鳥などの名前が頻繁に出てくるのですが、私には雰囲気として分かるだけで実際にどんな花であるか、といったことが全然分かりません。山口瞳の本にもたびたび庭の木々の記述が出てきて、それらを読んでいるときも思っていたのだけれどやはり植物事典が欲しい。実際に見る機会がそれほどない以上まずは写真から、ですね。

そういえば昔、実家の庭で冬になるとたくさんなっていた小さな赤い実、あれはなんという実だったのだろう。お正月くらいになると全部の実が赤くなって庭の一部分が赤で染まるようにきれいだったけれど、本格的な寒さがやってくると近くの山から鳥がおりてきて1カ月足らずで全部食べ尽くしてしまったものです。ときどき急降下してきた鳥がガラス窓に直撃して、ふらふらとしながらどこかに飛んでいってしまったりしていました。
実がなくなると母親は半分に切った蜜柑を枝にさしていたっけ。夕方学校から帰ってくると、しなびた蜜柑がいくつも枝にささっているのが道路から見えたりして、子供の私は何とも言えない気分になったものです。

今住んでいるアパートは小学校のそばにあるため、お休みの日に家にいると鳥の鳴き声がうるさいくらいに聞こえます。
そのせいか帰りに部屋を見上げたり、出かけるときにアパートを振り返ると、一階から伸びている木の枝にオレンジのものがささっているのが見えます。どうやら隣の部屋に住んでいるおじさんがベランダから枝に蜜柑を差しているらしいのです。そしてそれを見るたびになぜか私はいろいろな重なり合ったおかしな笑いがこみ上げてしまうのです。