「早春」-庄野潤三-

庄野潤三が奥さんと神戸を訪ね、市内を歩いたり、食事をしたり、さまざまなところを見物したりするという内容で、これといったストーリーはなく作者が私の「神戸物語」というように、同行する芦屋に住む妻の叔父夫妻と、作者の大阪外語学校時代の同級生で新聞社を停年退職したばかりの生粋の神戸っ子・太地一郎、作者の米国留学が縁でその息子たちと知り合った香港出身の貿易商の郭さん夫妻に証言を織り込んだ神戸案内と言えます。なのでそれぞれにとっての神戸であり、全体的なテーマなどがあるわけではありません。

私は生まれも育ちも神奈川だし、神戸には旅行で2、3回ぐらい行ったことがあるだけなので、ここに出てくる神戸の風景になじみはないし、特に現在(1980年当時)と過去(戦前、戦後)の情景が混じり合うのでついていけない部分もあるけれど、ある日本の都市(まぁ神戸なんですけど)における明治からの個人史という感じでとらえるとおもしろいと思います。