「婚約」−山口瞳−

canoe-ken2005-03-03

3月になっても寒い日が続いていて、なかなか春らしい暖かい日は来ない。しかも今日の夜から明日にかけては雪が降るらしい。まだ外は薄日が差しているという感じだけれど、どうなのだろう。

ここ一年はいろいろなことをどうもマイナス方向に考えがちだったような気がする。そしてそのマイナス方向が、どうも山口瞳の作品とマッチしていたような気もする。あいかわらず「血族」や「家族」を読む勇気はないけれど、解説では、大衆文学から純文学への移行期に書かれた作品と評されているこの短編集も、気むずかしい、悲観主義的な主人公(≒山口瞳本人)の様子が、文章や会話のあちらこちらに描かれて、全体を覆うトーンはグレーだ。黒ではないところが山口瞳らしいと思う。自分の心情としては黒なのだが、白の気持ちも分からないではない、そんな黒と白のあいだを行き来しているうちに、どんよりとしたグレーに染まってしまう。そんな感じ。

しかしどんなに寒い日が続こうともいつかは春になり、暑い夏が来るわけで、私たちはそれを待ち続けるしかない。ただいつ春になってもいいようにその準備をきちんとしておくことは大切で、それがないと単に暖かくなっただけになってしまう。そして私はまだ山口瞳の最後の文章を読んでいないけれど、「血族」や「家族」を書いた後に、山口瞳にとっての春は訪れたのだろうか。