「わが町」−山口瞳−

「たとえば一軒の床屋があって、日曜日にそこへやってくる高校生からおじいさんにいたるまでのひとが、順番を待ちながら、のんびりと一回分だけ読んでくれるというような小説を書きたいと思ってこれを書いた」・・・・というようなことが帯に書いてあって、それいゆに置いてある「西荻カメラ」を思い出したりした。

同じ町で暮し、近所の飲み屋で酒を飲み、野球チームを作って試合をし、釣りをしに奥多摩のほうまで足をのばし・・・・エピソードは東京のはずれのある町で繰り広げられるほのぼのとしたものだけれど、登場してくる人々はそれぞれに心に抱えるものがあってでもそれが表に出るとこがないだけにせつない、そんな小説集。
たぶんなにかふと思う度にこの本を読み返すんじゃないかとちょっと思った。そういう風に思って買ったわけではないけれど、山口瞳の本で初めてのハードカバー。しかも函入り。柳原良平の描いた素朴な国立駅の絵がとてもいい感じです。「男性自身」の表紙にも出てきた国立駅の絵はもう少し新しい。

また帯には「時代の流れに逆行して『どれだけ隣人を愛せるか』に賭けたつもりなのである」とも書かれていて、「男性自身」なので書かれている近所の人たちへのものすごい気の使い方はこういう気持ちだったのか?なんて本文とは関係ないところで感慨深くなってしまう。もちろん近所の人だけではなく、周りの人全員に、と言っていいほど山口瞳は気を配っていて、私などはそういうことが全然だめなので、すぐにこういう生き方って大変だろうなぁといつも思ってしまう。でも、そんなことのほほんと思ってる場合じゃないんだ。