「迷惑旅行」−山口瞳−

山口瞳が月に一回ドスト氏を絵を書くために、網走から松江、佐賀など日本の各地に赴いた際の紀行文集。
行き先が決まるともちろん出版社の担当者が綿密に旅行のスケジュールや宿泊先を決め、さらに目的地周辺に住む人々が次々と現れていろいろなところに案内してくれる。そんな様子を山口瞳は「どうしていいかわからない状態=迷惑」と思いつつ、そういった人々の好意を素直に受け入れている。

なので紀行文といっても例えば田中小実昌が書く紀行文とは全然趣が違っていて、それは単に置かれた環境や状況が違うだけのことで、どちらがいいとか悪いとかではなくて、山口瞳も多分一人でぶらりといった田中小実昌みたいな旅をしてみたいと思っているのだろうけれど、性格的にそういうことができないこともわかっていて、その中で最善を尽くそうとしている様子が文章からものすごくうかがえたりするわけです。
そういう意味ではさまざまな状況に振り回されて落ち込んだり体調を悪くしたり、逆にいい気持ちになったり楽しく盛り上がったりする一行の様子はおもしろいけれど読んでいるとちょっと疲れるような気がする。でもそれはこの本に限らず山口瞳の本全体に言えることで、それほどイヤな疲れではない。