本屋で同時代に生きている作家の新作を見つける楽しみ

canoe-ken2007-05-22

普段、古本屋ばかり回って、もう亡くなってしまった作家の本ばかり読んでいるので、同時代に生きている作家の新作を心待ちにする、という楽しみがないがちょっと寂しい。改めてそんなことを思うと、実は大きな楽しみを逃しているような気になったりするけれど、きっかけがないのと、今の読書傾向を追いかけるだけでいっぱいなので、まぁしょうがないです。堀江敏幸は、そんな楽しみを味わせてくれる数少ない作家。いや、ひとりだけかも知れません。

大学卒業後、知り合いの会社に長く勤める蕗子さんは、低血圧でいつも体調が悪く、感覚的にもちょっとまわりの人たちとズレている独身女性。ある日、蕗子さんは、長いあいだ離れて暮らしていた父の遺品を整理するために、父親が暮らしていたアパートまで出かける。近くにひょうたん池のあるそのアパートでみつけた「めぐらし屋」と書かれた大学ノート、そしてそのノートに貼られていた蕗子さんが幼い頃に描いた黄色い傘の絵にひかれ、謎のようなそのノートと、蕗子さんがアパートにいるときにたまたまかかってきた要領の得ない電話、近くに住む父親の知人といった点をたどって、知らなかった父親の過去に想いをめぐらせていく‥‥。
ストーリーとしてはものすごくあっさりとして、帯に書かれている「わからないことは わからないままにしておくのが いちばんいい」という言葉のように、物語の終わりになにかが大きく変わったり、誰もが納得するような答えが用意されているわけではない。そんな淡泊な物語も含めて、文章全体から漂う感触やディテールへのこだわりなど、堀江敏幸のいつもの作品とあまり変わっていない。強いていえば、新聞の日曜版に連載されたせいか、ディテールへのこだわりよりも全体の感触に重みが置かれているように思う。私としては、その辺にちょっと物足りなさを感じてしまったかな。