「子午線を求めて」−堀江敏幸−

canoe-ken2005-05-15

現代詩手帖」や「ユリイカ」に連載されたコラムを中心に、セリーヌと1980年代のロマン・ノワールの関係を探った文章などを加えてまとめられた本。文字数の決まった短めのものと論文ともいえる内容のものなどがバランスよく並べられていて、それがいいテンポになっている。

中でも、パリの郊外を舞台としたロマン・ノワールを考察し、同時に自身の「郊外へ」につながる文章が特に興味深い。私は、ロマン・ノワールはもとよりフランス文学やフランスの移民問題などに疎いので、書かれていることのほとんどは理解できておらず、そういえばゴダール「はなればなれ」では、主人公たちが大金を強奪するのに川を行ったり来たりしていたことを思い出したりしました。(ちゃんと調べてみたら大金のある叔母の屋敷が郊外で、主人公たちのアパートがパリの市内という構図でした)
ただし郊外における移民やその二世、教育、犯罪・・・・といった問題を取り上げてはいるものの、問題の提起や告発を主題としている訳ではないことはいうまでもなく、どちらかといえば、中心における居心地の悪さを感じて周辺(郊外)に移動していったらそこに問題があった、といったほうがあっている気がします。そして「中心に対する理由の分からない居心地の悪さ、そして周辺への逃避・移動、そこに留まることへのこだわり」は、堀江敏幸の作品に共通するテーマの一つであると思う。